「真実を見つめる」2005年10月
前回は、血球細胞が血管からどのようにして遊出するのかを、好中球の動きを題材にして示した。血管内を移動している血球細胞は目的のところに到達して初めて活性化を受け細胞外に出て活動する。この時、血管内皮細胞の表面に出ているいくつかの CAM(cell adhesion molecule)細胞接着分子)との相互作用(cross talk)によって、rolling, adhesion, migration という段階を経て細胞外に出てゆくのである(Fig. 1)。
CAM は、それらの分子形態と特性から、およそ5群に分けられている(Fig. 2)。これらの CAM は、細胞の目とも腕とも言い換えることができる。血球細胞に限らず、すべての細胞はこのような細胞膜上に顔を出している分子群で会話しているのである。実験的に、これら CAM に対する特異的な antagonist (拮抗薬)を投与することで細胞の挙動はまったく変わってしまうことからも、生理学的挙動にいかに大きな働きをしているかがわかる。
血管の中を走行している細胞は丸い形をしている。細胞は丸い形をしている限り、ほとんど活性を示さない。だから血管の中を泳ぎまわることができるのである。勝手にどこでもくっついてしまう現象は、糖尿病にみることができる。血糖値が高くなることで、糖鎖がベタベタと接着分子にくっついてしまい、血管内の細胞接着分子の選択的接着に異常をきたしているといいかえてもいい。特定の細胞は、その細胞特有の形態をしている。細胞の形態、それすなわち細胞の顔と活動性の違いといってもよい。細胞が血管内皮細胞の間を潜り抜けるときは、丸い細胞が細胞内骨格に働きかけて平らな細胞になり、体を細くして、まるでアメーバのような動きをしてすり抜けてゆくのである。・・・・・以後割愛
参考文献: 宮坂昌之・矢原一郎 編: 実験医学別冊、Bio Science 用語ライブラリー、接着分子、1996 羊土社. 宮坂昌之 編: Bioscience Series 接着分子 –分子機構と臨床への応用」 1993 中外医学社. EDGER D, TIMPL R, THOENEN H: Structural requirements for the stimulation of neurite outgrowth by two variants of laminin and their inhibition by antibodies. J Cell Biol 106: p1299-1306, 1988.