骨折・捻挫の治療例 4
成人男性の上腕骨骨幹部骨折
▼骨折の翌日,X-P(正面像)
成人男性の上腕骨骨幹部骨折です。この方はⅡ型糖尿病を罹患しておられましたが,内科医と連携で血糖値を管理しつつ治療することができました。会社経営されており,手術をするために入院することはできないという状況の方で,強く保存療法を願っての来院でした。
初診時に若干の橈骨神経麻痺を伴っており,ご本人の希望である保存療法が可能かどうか,他科の医師たちとも十分検討しました。その結果,骨折部に橈骨神経が介入してはいないという結論に達し,通院で保存療法をすることなりました。
このX-Pは,骨折の翌日の正面像です。いくつかの骨片に割れるように骨折していることがわかります。ちょうどこの骨折部を橈骨神経が走行しているのです。
▼骨折の翌日,X-P(側面像)
このX-Pは,骨折の翌日の側面像です。前方に凸し,捻れていることがわかります。
▼徒手整復後のX-P,(正面像)
徒手整復および固定後のX-P正面像です。外方凸に軸が合っていないと考えがちですが,これはこれからの骨折部周囲の筋の萎縮や,骨折部の血腫の組織学的変化を考慮しての固定なのです。経過の先の先までわかっているからこそできる整復と固定なのです。この固定はとても体にフィットしてますから,ワンサイズ大き目のスーツを準備していただくことで,それを着ることができます。実は,この患者さんば,一般の医療機関でよく行われる上腕を体の横に縛り付ける固定をして来院されました。しかし,歩いていても歩行の振動で痛みが憎悪し,寝返りが大変で,来院する前日の夜は座ったまま寝たそうです。外転位固定にしたことで,腕が外側に突き出ますが,痛みがまったくなくなるので,その姿勢のまま日常生活への支障はほとんどなかったそうです。
▼徒手整復後のX-P,(側面像)
このX-Pは,整復後の側面像です。これも前方凸の転位が残っていると思われるでしょうが,早期から上腕二頭筋の自動運動を行なわせますから,その力が,前方凸に対して矯正力として働き,経過と共にこの転位が整復されます。すべては臨床経験と組織学的理解を基にして計画的に行われます。
▼骨折後16 週経過 のX-P
骨折後16週間経過した時のX-Pです。骨癒合していることはもちろんですが,正面像での外測凸も側面像の前方凸も解剖学的位置に整えられていることがわかります。重要なことは,このような結果を初診時にすべて想定できる豊富な臨床経験と深い組織学的理解をもって治療にあたることなのです。治癒に至るまで1日も会社を休まないで済んだことに,とても満足していただけました。
▼肩関節可動域の経過
約3か月と4か月経過した時の肩関節の動きを示しています。初診から肩関節を60度ほど外に挙げた状態で固定したことで,関節可動域の拡大のための機能訓練に多くの時間を要することもありませんでした。肘関節は骨折から外転位固定具に工夫をすることで,2週間くらいから屈曲はできるようにしました。その工夫で食事を一人で取れるようになったことも喜ばれたことの一つです。よって手や肘の関節の絞縮も生じませんでした。